乾癬とは
乾癬(かんせん)は、慢性的な炎症性皮膚疾患で、良くなったり悪くなったりを繰り返すものです。皮膚細胞の過剰な成長と皮膚の急速なターンオーバーにより皮膚細胞が異常な速さで生産され、体表に様々な症状を引き起こします。典型的な皮膚症状として、紅斑や肥厚(皮膚が赤くなって盛り上がる)、鱗屑(表面に銀白色のかさぶたのようなものができる)などがあります。また、皮膚症状だけでなく爪の変化や関節の痛みを伴う場合もあります。
乾癬が発症する原因はまだよくわかっていませんが、自己の免疫系が誤って正常な組織を攻撃し、その結果、皮膚の過剰な細胞生産が引き起こされるためと考えられています。要因として、遺伝的なものや、外傷、感染症、薬剤の影響、精神的ストレスなど様々なものが挙げられています。
さらに飲酒や喫煙、肥満、高血圧、糖尿病、脂質異常症などを伴う「メタボリックシンドローム」などが組み合わさって、免疫システムのバランスが崩れ、乾癬の発症につながる場合もあると言われています。
乾癬の病型
- 尋常性乾癬乾癬の90%をしめる病型。
- 滴状乾癬全身に小さな皮疹が出現する病態。感冒のあとに発症することが多くみられ、とくに扁桃腺炎がきっかけとなることが多い。
- 乾癬性関節炎乾癬に関節の痛みや腫れを伴う疾患で、乾癬の10-15%に合併する。
- 膿疱性乾癬発熱とともに、急激に皮膚の潮紅を伴って膿疱が多発する病型。厚生労働省の指定難病に指定されている。
- 乾癬性紅皮症乾癬の皮疹が全身に広がり、全身の80%以上が赤くなる病型
乾癬の治療
乾癬の治療の基本は外用療法で、副腎皮質ステロイドや活性型ビタミンD3、およびその配合剤が用いられます。
中等症以上の皮疹や関節症状を伴う場合には、ビタミンA誘導体(チガソン)、免疫抑制薬(ネオーラル)、
PDE4阻害薬(オテズラ)、抗リウマチ薬(メトトレキサート)などの内服療法、光線療法(紫外線療法)なども選択されます。
従来の内服薬や光線療法などの治療でも十分な効果が得られない、中等症から重症の患者さんに対しては、生物学的製剤や経口分子標的薬(JAK阻害薬、TYK2阻害薬)が適応となります。
皮疹や関節症状に対する効果が高い一方、免疫を抑える作用が強いため感染症にかかりやすくなる場合があり、リスクベネフィットを考慮した選択が必要です。
また、投与開始前のスクリーニング検査として血液検査、胸部画像検査が必須であり、治療中も定期的なモニタリングのための検査が必要です。
当院は生物学的製剤使用承認施設となっており、難治性の中等症から重症の乾癬患者さんに対する生物製剤や経口の分子標的薬を用いた治療が可能です。
投与にあたっては、東京医科大学病院、関東労災病院、川崎市立井田病院と連携をいたします。
①外用療法
ステロイド外用剤
皮膚の炎症をおさえて赤みを改善する効果
効果の発現が早いのが特徴
活性型ビタミンD3外用剤
乾癬による皮膚の異常角化を抑える効果
効果の発現に少し時間がかかる
ステロイド/活性型ビタミンD3混合剤
上記2つの特徴を併せ持つ。
(ドボベット®、マーデュオックス®)
外用AhR調整薬
乾癬の炎症性サイトカインの減少、抗酸化作用、バリア蛋白の正常化などのメカニズムを通じて病変を改善させる新しい外用剤。(ブイタマークリーム®)
②光線療法
特定領域の波長の紫外線は免疫抑制作用を通して乾癬の皮疹に対し効果があることがわかっています。
当院では308nmに限局した波長をもつエキシマライトを用いて難治性の限局した皮疹に対する治療を行います。
③内服療法
1)シクロスポリン(ネオーラル®)
免疫抑制薬で、乾癬に対しては少量で効果があります。
注意すべき副作用として高血圧、腎障害があり、長期投与によりこれらのリスクがあがるため、急性期の寛解導入として使われることが多く、長期の病勢コントロールには適していません。
2)レチノイド(チガソン®)
乾癬の病態における以上な角化のサイクルを調節する薬剤です。
紫外線療法との併用も可能です。
催奇形性があるため将来子どもをもつ可能性のある患者様の治療としては適しません。
3)メソトレキセート(リウマトレックス®)
主として皮疹よりも関節症状が強く、NSAIDでコントロールが困難な場合に投与が考慮されます。
注意すべき副作用として口内炎や吐き気、貧血、間質性肺炎などがあり、定期的な採血と胸部レントゲン検査が必要になります。
4)アプレミラスト(オテズラ®)
乾癬の病態ではホスホジエステラーゼ4(PDE4)が過剰に発現し、結果として乾癬の炎症に関わるサイトカインの産生が亢進している状態があります。
オテズラはこのPDE4の働きを阻害することで炎症性サイトカインの産生量を調節し、過剰な炎症反応を抑制します。
外用療法等で十分な効果が得られない中等症以上の方や関節症状がある方に適応となります。
5)デュークラバシチニブ(ソーティクツ®)
ソーティクツは、TYK2(チロシンキナーゼ2)阻害薬と呼ばれ、これまでの飲み薬とは異なる作用をもつ乾癬の治療薬です。
乾癬には、Ⅰ型IFN,IL-23,IL-17,TNFαなどの様々なサイトカイン(炎症性物質)が関与しており、TYK2は、これらの炎症シグナルを細胞核へ伝える役割を担っております。
TYK2阻害することで、乾癬の発症に役割を果たす1型インターフェロンや、IL-12やIL-23といった乾癬の症状の形成や維持や重要なサイトカインの働きをブロックすることを通して乾癬の症状を改善します。
光線療法やその他の内服療法では十分に効果が得られない、成人の尋常性乾癬・膿疱性乾癬・乾癬性紅皮症の患者さまが適応となります。
生物学的製剤
乾癬で過剰につくられ炎症を起こす物質である「サイトカイン(免疫機能に関わるタンパク質)」の働きをピンポイントで抑える薬剤です。
他の治療方法に比べて乾癬の皮膚症状に対する効果が高く、加えて関節症状にも効果があります。
従来の外用剤や内服療法で効果が不十分であった中等症~重症の方が適応になりますが、身体の免疫機能に影響を与えるため、感染症等へ十分に注意するとともに、定期的な検査が必要となります。
現在、乾癬に適応のある生物学的製剤は11種類あり、そのターゲットとなるサイトカインには、TNF-α、IL-17、IL-12/23、IL-23があります。
インフリキシマブのみ点滴注射で、他の薬は皮下注射を、それぞれ決められたスケジュールで定期的に行います。
医療機関で注射するほか、処方されて自己注射ができるものもあります。
重症度や関節症状の評価を行った上で、通院頻度など患者さんのライフスタイルも考慮して薬剤の選択をします。
当院では点滴薬のレミケードを除く、各製剤による治療が可能です。
薬剤名 | インフリキシマブ (レミケード®) |
アダリブマブ (ヒュミラ®) |
ウステキヌマブ (ステラーラ®) |
セクキヌマブ (コセンティクス®) |
イキセキズマブ (トルツ®) |
ブロダルマブ (ルミセフ®) |
グセルクマブ (トレムフィア®) |
リサンキズマブ (スキリージ®) |
セルトリズマブべゴル (シムジア®) |
チルドラキズマブ (イルミア®) |
ビメキズマブ (ビンゼレックス®) |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
標的 | TNFα | TNFα | IL-12/23p40 | IL-17A | IL-17A | IL-17受容体A | IL-23p19 | IL-23p19 | TNFα | IL-23p19 | IL-17A/F |
注射形態 | 静脈注射 | 皮下注射※ | 皮下注射 | 皮下注射※ | 皮下注射※ | 皮下注射※ | 皮下注射 | 皮下注射 | 皮下注射※ | 皮下注射 | 皮下注射※ |
用法 | 5mg/kgを0.2.6週以後8週間隔。 効果不十分の場合10mg/kgまでの増量 または4週間隔までの短縮可 |
初回は80mg以後は40mgを2週間隔。 効果不十分な場合80mgに増量可 |
45mgを0.4週以後12週間隔。 効果不十分な場合90mgに増量可 |
300mgを0.1.2.3.4週 以後4週間隔 |
初回は160mg、2~12週は80mgを2週間隔。 以後は80mgを4週間隔。 12週時点で効果不十分な場合、 2週間投与を継続可 |
210mgを0.1.2週 以後2週間隔 |
100mgを0.4週 以後8週間隔 |
150mgを0.4週 以後12週間隔 |
1回400mgを2週間隔。 症状安定後は200mgを2週間隔 又は400mgを4週間隔で投与可 |
100mgを0.4週 以後12週間隔 |
320mgを初回から16週までは4週間隔。 以降は8週間隔。 患者さんの状態に応じて16週以降も4週間隔で投与 |
乾癬における国内の承認状況 | 尋常性乾癬・関節症性乾癬・ 膿疱性乾癬・乾癬性紅皮症 |
尋常性乾癬・関節症性乾癬・ 膿疱性乾癬 |
尋常性乾癬・関節症性乾癬 | 尋常性乾癬・関節症性乾癬・ 膿疱性乾癬 |
尋常性乾癬・関節症性乾癬・ 膿疱性乾癬・乾癬性紅皮症 |
尋常性乾癬・関節症性乾癬・ 膿疱性乾癬・乾癬性紅皮症 |
尋常性乾癬・関節症性乾癬・ 膿疱性乾癬・乾癬性紅皮症 |
尋常性乾癬・関節症性乾癬・ 膿疱性乾癬・乾癬性紅皮症 |
尋常性乾癬・関節症性乾癬・ 膿疱性乾癬・乾癬性紅皮症 |
尋常性乾癬 | 尋常性乾癬・膿疱性乾癬・乾癬性紅皮症 |
※自己注射が可能な製剤
掌蹠膿疱症とは
掌蹠膿疱症(しょうせきのうほうしょう)は、手のひらや足の裏に無菌性の水疱(水ぶくれ)や膿疱(膿の詰まった水疱)を生じる、慢性の炎症性皮膚疾患です。
原因や発症メカニズムはまだ完全には解明されていませんが、扁桃炎や副鼻腔炎、虫歯、歯周病などの体の別の部分で感染が生じる病巣感染との関連が高いと考えられています。
その他、金属アレルギー(歯科治療の金属 等)、喫煙などが発症と関連しているという指摘もあります。
掌蹠膿疱症では、当初、皮疹は小さな水疱で、次第に黄色い膿疱に変化します。その後かさぶたとなり、剥がれ落ちます。このサイクルが繰り返されますが、重症化すると手のひらや足の裏の皮膚が厚くなってひび割れを起こすことで、痛みを伴うようになります。
また、鎖骨や胸の中央の胸鎖肋関節などの関節が突然痛くなることがあるのも特徴で、これは掌蹠膿疱症性骨関節炎と呼ばれます。日常生活が困難になるほどの強い痛みである場合もあり、放置すると、関節の変形などにつながることもあります。そのため、早期に適切な治療を行うことが大切です。
治療としては、発症の原因となっていると思われる扁桃炎や歯周病がある場合は、それらの治療が最優先されます。
また、掌蹠膿疱症患者の約80%に喫煙習慣があると報告されており、禁煙が重要です。
薬物療法として、皮膚の症状にはステロイドやビタミンDの外用薬が主に使用されます。改善しない場合や関節症状を伴う場合では全身療法が考慮され、ビタミンA誘導体や免疫抑制剤などの内服薬による治療を行います。
このほか、病変部に紫外線を照射する光線療法や、さらに重症の場合は、生物学的製剤による治療を行うこともあります。